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遺産分割の対象財産にはどのようなものがありますか?

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遺産分割の対象財産にはどのようなものがありますか?
執筆者 弁護士 山本 哲也

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1 遺産分割の対象

  遺産分割の対象は、原則的には、①相続開始時(被相続人の死亡時)に存在し、被相続人に帰属する積極財産で、かつ、②遺産分割時に存在するもので、③遺言や遺産分割等により承継が定まっていない財産(未分割財産)です。

  実務上、遺産分割の対象財産性について問題となるとして、債務、不動産賃借権・使用借権、預貯金等、現金、生命保険金、遺族給付、葬儀費用、祭祀財産等があります。

  以下それぞれについて解説をします。

2 債務

  債務も遺産であり、一身専属なものと除き相続人が相続しますが、遺産分割は、被相続人に帰属する積極財産を対象とするもので、債務は原則として遺産分割の対象とはなりません。

  金銭債務等の可分債務は、相続開始と同時に共同相続人の相続分に応じた割合で承継されます。可分債務が連帯債務であったときは、各共同相続人が相続分に応じて承継し、承継した範囲で本来の債務者とともに連帯債務者となると解されています(最判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)。

  不可分債務は、不可分債務として相続されます。

  遺産分割の当事者間に合意があれば、債務の承継について遺産分割協議や調停で定めることも可能ですが、債権者が承諾しない限り、債権者との関係では債務を承継しないと合意された相続人も自己の相続分の範囲での債務負担を免れることはできません。もし、遺産分割により債務を承継しないこととなった相続人が債権者から請求されて弁済した場合には、遺産分割で当該債務を承継するとされた相続人に求償することになるでしょう。

3 不動産賃借権・使用借権

空き家

 ア 不動産賃借権は、財産的価値があり、一身専属性はないので、遺産分割の対象となります。

 イ 居住用建物の借家権も、遺産分割の対象となりますが、公営住宅を使用する権利については相続の対象とならないとされています。

 ウ 不動産の使用借権は、使用貸借契約が借主の死亡により消滅するとされている(民法599条)ので、原則として遺産分割の対象となりません。

   しかし、共同相続人の一人が被相続人の承諾を得て、遺産である建物に被相続人と同居していたときは、特段の事情がない限り被相続人の死亡後も遺産分割により建物の所有関係が確定するまでの間は、当該相続人に建物を無償使用させる合意があったものといえるとして、使用貸借契約関係の存続が認められた例もあります(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)。

4 預貯金等(定額貯金)

住宅の模型と模造品の通帳

  共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります(最判平成28年12月19日)。

  この判例により、預貯金も遺産分割協議が成立するまでは当然に未分割財産となります。

  また、遺産分割協議が成立しない場合に預貯金を納税資金として引き出すことができません。

5 現金

  現金は金銭債権等の可分債権と異なり、相続分に応じて分割承継されることはなく、遺産分割の対象となります。相続人は、現金を保管する他の相続人に対して自己の相続分相当額の金銭の支払いを請求することはできません(最判平成4年4月10日)。

6 生命保険金

ブロックと計算機

  被相続人の死亡を保険事故として、相続人が生命保険契約に基づく保険金を取得した場合、その保険金収入は、保険者(保険会社)から直接に受けるものであり、相続という法律効果によって被相続人から承継する財産ではありません。

  一方、被相続人が契約者で、被保険者も受取人も被相続人という場合は、いったん被相続人が保険金を受け取り、それが相続されたとみることができます。したがって、この場合の保険金は相続人間で分割することになります。

7 遺族給付

  遺族給付は、社会保障関係の特別法(厚生年金保険法、国家公務員等共済組合法、地方公務員等共済組合法等)により、死者と一定の関係にある親族等になされる給付であり、損失補償、遺族年金、弔慰金、葬祭料等が含まれます。

  これらの特別法によれば、支給を受ける遺族等の範囲、順位が民法の相続人の範囲・順位と異なっており、受給権者の死亡により受給権が消滅するとされているなどすることから、遺族等の生活保障を目的とするもので、受給権者の固有の権利で、遺産性はないと考えられています。

8 葬儀費用

  葬儀費用は、葬式(通夜、告別式、火葬、埋葬等)の費用でありますが、被相続人死亡後に生ずる債務であって、相続債務ではなく、遺産分割の対象にもなりません。

9 祭祀財産等

  祭祀財産は、系譜(家系図など)、祭具(位牌・仏壇など)、墳墓(墓石・墓碑など)を指します。これらは、相続とは別に承継することとされています(民法897条)。したがって、遺産分割の対象とはなりませんし、相続分や遺留分の算定の基礎ともなりません。

 なお、遺産分割の対象財産でないものについても、遺産分割協議や調停において事実上遺産分割の割合等に関して当事者の考慮の対象とされること等はあり得ます。

 さらに詳しいことにつきましては、相続実務に詳しい弁護士にご相談ください。